日本ではピルが承認された1999年以降も普及率が伸び悩み、2022年の推計服用率は6.1%にとどまっています。この背景には、避妊以外の治療目的で処方されるケースの少なさや、低用量ピルの副作用が懸念されていることが挙げられます。
本記事では、低用量ピルの副作用について解説します。
1. 低用量ピルとは?女性ホルモンとの関係
低用量ピルは、「エチニルエストラジオール30〜50μg未満のエストロゲン」と「黄体ホルモン(プロゲスチン)」を配合した薬です。排卵の抑制に加え、子宮内膜を薄くして受精卵の着床を防ぎ、精子の侵入を阻む働きを持ちます。エストロゲンが血液凝固系を刺激するため、血栓症のリスクがわずかに高まることが知られていますが、妊娠時よりは低い水準です。ピルの服用中は人工的にホルモン周期をコントロールするため、身体に変化が起こることを理解して服用することが大切です。
2. 低用量ピルの副作用
軽度の副作用には吐き気、乳房の張り、頭痛、気分の落ち込み、不正出血などがあります。多くは服用開始後数週間から三か月以内に自然と改善しますが、服薬量を調整したり、薬の種類を変えたりすることでも対処が可能です。一方で、重大な副作用として血栓症、脳卒中、心筋梗塞、肝機能障害を発症することがあります。血栓症の年間発症人数はピルを服用していない1万人中1〜5人に対し、ピルを服用している人では3〜9人と多い傾向です。しかし、産後十二週の人だと40〜65人とさらに増えるため、産後よりは低い値となります。喫煙、肥満、三十五歳以上、高血圧、片頭痛などを持つ場合は、血栓症のリスクが上がるため、特に注意が必要です。眠気や情緒が不安定になるなど、日常生活に影響する症状が続く場合も、我慢せず医師に相談することが必要です。
3. 注意すべきポイント
ピルを服用中に、片脚の急な痛みやむくみ、突然の息切れや胸痛、激しい片頭痛を感じたら、血栓症を疑うサインです。不正出血は服用し始めて最初の頃に起こりやすく、三か月を超えて続く場合は子宮に関連する病気の検査が必要になることもあります。女性特有のがんの既往歴を持つ人は、乳房のしこりや性行為後の出血にも注意が必要です。症状を感じたら自己判断で服用を中断するのではなく、医師の指示を仰ぐことが大切です。
4. 低用量ピルとがんの関連性
子宮頸がんはヒトパピローマウイルスによる感染が主な原因です。ピルでは感染を防ぐことができません。対策として、避妊用コンドームの併用、定期的な頸がん検診とHPVワクチン接種が推奨されています。乳がんでは超低用量ピルで明確なリスクの増加は解明されていませんが、家族歴や遺伝的な要因がある場合は、ピルと慎重に向き合うことが必要です。その一方、子宮体がんや卵巣がんの発症は40%以上低減し、服薬中止後20年を経ても予防効果があることが報告されています
5. 服用をやめるべき兆候とタイミング
血栓症と見られる症状を感じたら、ただちに服用を中止して病院を受診することが必要です。35歳以上で喫煙本数が一日15本を超える場合や、高血圧や糖尿病が診断された場合、50歳以上になり心血管のリスクが増えた場合も、ピルを飲み続けることは望ましくありません。長くピルを服用している人は、5年以上を目安に年齢や基礎疾患を踏まえて医師に相談することがおすすめです。ピルの服用を中止した後はすぐ避妊効果が薄れるため、妊娠を望まない人は注意が必要です。一方で、妊娠を希望する場合にもピルの服用を中止する必要がありますが、三周期前後で中止すると自然な排卵周期が元に戻りやすいとされます。
6. 低用量ピルの副作用が現れたときの対応と受診の目安
軽度の吐き気や頭痛であれば、就寝前にピルを服用したり、食後の服用、鎮痛薬の併用などで改善が期待できます。不正出血が続く場合は服用時間を一定に保ち、三か月以上続けば超音波検査を受けることが大切です。副作用が起きたら、どのくらいの程度なのか、どのタイミングで服作用が起きるのか、副作用はどれくらい続くのかなどを記録しておくと、診察時に役立ちます。強い腹痛、息切れ、視覚の異常など重篤な症状があれば、当日中に医療機関を受診する必要があります。検査としては血液凝固系検査、肝機能検査、画像検査が行われます。副作用が改善するまでには数週間が必要となることがありますが、症状を記録し続けることで改善している度合いを把握しやすくなります。
7. 低用量ピルの服用を検討している場合は医師に相談
近年はオンライン診療で手軽に入手できる場合が増えていますが、服用前の問診と血圧の測定、家族歴の確認、必要に応じた血液検査を行うことで安心して服用することができます。副作用が発症するリスクや原因を調べて、自身の生活習慣に合った飲み方ができるのか、医師や薬剤師と相談することが低用量ピルの副作用を最小限に抑える方法です。産婦人科医では、複数の種類のピルの中から、一人ひとりに合った副作用の少ないピルを提案することができます。また、定期検診を行う頻度なども患者それぞれ柔軟に対応することができるクリニックも増えています。ピルのリスクやデメリットを理解して、医師に相談しながら服用することが重要です。